ビオラ、すずらん、年下の君


しばらくの沈黙のあと、

「そっちは?なんていうんすか?」

聡太君が訊いた。


「ん、あ、佐原です」

「下の名前は?」


首を傾げ、色っぽい流し目みたいな上目遣いで訊く。


(聡太君、ホストの素質ありだな…)


「和香子っていうの。平和の和に香り」


「和香子。いい名前だね」


ありがとうと答えた私は、多分、耳まで真っ赤だったと思う。
『だね』って…う、タメ口。いやそれよか。


わかこ、わかこ、わかこ。


呼び捨てにされちゃったあ。
無礼な感じ全然しない。
なんか、踊り出したくなる気分。

これで、今日一日ウキウキ楽しく過ごせちゃうよ。


「行ってらっしゃい、聡太君」


頷いただけで、昨日と同じく急ぎ足でバスを降りる聡太君の後ろ姿をデジャブみたいに感じる。


私は電車を待つあいだ、スマホを取り出した。


待ち受け画面には、柴犬と座って寄り添い、膝に黒猫、肩に尾っぽの長い白い鳥を乗せた私の写真。

愛犬の柴犬、『すずらん』と愛猫の『ブラッキー』、オカメインコの『ビオラ』。

嬉しいことがあった時は、この御守り代わりの写真見るんだ。一人っ子の私は、この子達が兄弟みたいな存在。







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