ビオラ、すずらん、年下の君
直立不動の視線の先には、マーブルのロングコートチワワが散歩中だった。気が強そうだけど、カワイイ子。

初めて見るワンコだ。


なるほど。この辺りを縄張りとする鈴蘭には、新入りがどんなやつか確認する必要がある、ということだね。


やたらに犬を近付けるのはよくない。なのに鈴蘭は「ワン!」とひと声吠えたあと、激しく尻尾をフリフリし始め、チワワの方へ行こうとする。


友好的な鈴蘭に反応して、チワワも金魚みたいな尾っぽを揺らしながら、グイグイとリードを引っ張る。


「あ、ダメ、カツオ!」


か、カツオ…?
ちょっと吹き出しそうになったけど、なんとかセーフ。カツオくん(ちゃん、かな?)の飼い主は高校生くらいの女の子。黄色いTシャツにジーパンのラフな姿。


「こんにちは」


私が笑いかけると、その子は軽く頭を下げた。人見知りなのか笑顔はない。
それでもグイグイ積極的なカツオに引っ張られるようにして、私と鈴蘭の元へ近付いてきた。


「…すみません」


おずおずとした口調なのに彼女の切れ長の目は私を睨んでるように見えて、どきりとした。


いいえ、と戸惑いながら返事をすると、彼女は下唇をくっと噛んで視線を逸らした。




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