ビオラ、すずらん、年下の君


「いや!やめて下さい!馬場友さん、誰にも何も言いませんから、私をここから出して下さい!お願いします!」


「ほお…和香子。その顔、いいな。最初から素直になればいいのに」


好色な笑みを浮かべつつ、馬場友はしゅるる、と自分のネクタイをほどいた。

左右の拳にネクタイの端を巻きつけ、強度を確かめるようにピンピンと引っ張る。

「おっと誤解するなよ。目隠しするだけだ。お前の羞恥心を剥ぎ取ってやるから、後ろ向きになれ」


「……」


出入り口のドアは真っ正面にある。
あそこまで辿り着ければ…

ドアを引いて、共同のマンション通路に出れば音が響くから、きっと馬場友は諦める。


私は従うと見せかけ、横に少しずれた。

そして。
今だ!


「えいっ!」

そばにあったキャスター付きの椅子を思い切りの力で馬場友の方へ突き飛ばした。

「わっ!何しやがる!」


椅子は、馬場友に勢いよくぶつかり、貧弱な身体が大きくふらついた。その隙をついて、私は一目散に駆け出した。


「コラ、待て!」

「きゃあ!」


馬場友に腕を掴まれ、私は悲鳴を上げた。





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