ビオラ、すずらん、年下の君
馬場友の様子がおかしくなる。
その視線が私の後ろへ移った。
「…何、してるんだよ?」
聞き覚えのある声がして、私は顔を覆っていた手のひらに隙間を作った。
背の高い若い男性が入り口のドアの前に立っていた。
「聡太君!」
「和香子、どうした?」
肩にベージュのトート・バッグを掛けた聡太君が目を見開いて訊く。
私は何も答えず、聡太君の元へ走り寄った。
「おお、ドア開いてましたか。これはこれはお見苦しいところを。さ、そちらへお掛け下さい」
登録スタッフが訪ねてきたと勘違いした馬場友は急に態度を変え、ヘラヘラと笑った。
助かった……良かった。
安堵した途端、目頭が熱くなってきて、涙が出そうになった。
何事もなかったように振る舞いたかったのに、次第に全身が震えてきた。
「…聡太君、どうしてここに…」
言い掛けた時、緊張の糸がプツリと切れ、私の身体が大きく揺らいだ。
「危ない!」
聡太君の逞しい腕が咄嗟に私の身体を抱き締めた。
私のおでこに聡太君の喉仏が触れる。Tシャツごしに感じる温かい胸。
もう、本当に…大丈夫だ……
爽やかなミストスプレーの匂いとかすかな男臭さに包み込まれ、私の視界は見る見るうちに涙で霞む。