ビオラ、すずらん、年下の君

「あああ…すっごい気持ちいい!」


こんなにキラキラした夏の海を見たのは何年ぶりかな?

狭いとこに閉じこもって仕事なんてしてたのが、アホらしくなっちゃう。
思い切ってきてよかった!


江ノ島駅からここまで歩いてくる途中のコンビニで、日焼け止めとペットボトルのお茶2本、聡太君のお握りとサンドイッチを買った。

私には聡太君が持ってきてくれたお弁当があるから、スナック菓子だけ。

結局、聡太君は私を気分転換に連れ出すために予備校をサボってしまった。どうせ自習だから、いいよ、と言って。


ジリジリとした陽射しが私と聡太君の肌を焦がしていく。

いつもの私なら日焼けなんか少しでも断固お断りなのに、今日だけは違う。


太陽も海も、遠くから聞こえる蝉の声も、水平線に浮かぶ船の眺めも、深緑の木陰も。


聡太君と何もかもを共有したかった。

こんなに、夏らしい夏は何年ぶりかな…


「あっちぃ…」


聡太君が眩しそうに眉を顰めた。
濃くて完璧な形の眉。きっとお手入れしてるんだろうな。
今時の男の子はムダ毛処理は常識らしいから。


「…ナニ和香子、おれにガン付け?」


聡太君が、唇を尖らし不機嫌な顔で言う。
しまった、私、聡太君、ガン見してたわ!





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