ビオラ、すずらん、年下の君
背の高い聡太君は「俺が前に立つと皆が見れなくなっちゃう」と言って、あんまり前に行こうとしない。
「あーん、僕、全然見えないよう!」
幼稚園くらいの男の子が一生懸命背伸びをしていた。すると聡太君は「ここから入りな。前に行けるよ」と男の子に優しく言った。
坊主頭の男の子は聡太君が作ったスペースから人の間を通って、うまくガラス面に辿り着いた。
「すみません、ありがとうございます」
赤ちゃんを乗せたバギーを押した男の子のお母さんが頭を下げ、聡太君は「いえ」とはにかんで、小さく頭を下げた。
遅い昼食を摂る為に海の見えるオープンデッキに出た。
陽射しが少し弱まって黒っぽい雲が出てきた。
夕立があるかもね。でも潮風はやっぱり気持ちいい。運良く空いた木製ベンチに並んで腰をおろした。
私は煮物のお弁当を膝に広げた。ちらっと聡太君の視線が私のジミ弁に注がれた。残りモノの里芋の煮物…ち、ちょっと恥ずかし…話題、話題!
「聡太君って、子供好きなんだ、なんか意外~」
私が冗談ぽく言うと、
「意外ってなんだよお…」
サンドイッチを頬張りながら聡太君は少し膨れっ面をした。あ、怒った?
8才年下に内心ビクビクって私、ちょっと情けない。