ビオラ、すずらん、年下の君
「ごめん、なんか…怒ってる?
私、へんなこと言っちゃった?
こんなところまで付き合わせちゃったし…迷惑だったよね?
私の傘、持って先に帰って。私は雨が止んでから帰るよ」
「もう、いい!分かったよ!俺が先に帰る!」
何かを振り切るように聡太君が叫んだ。
いきなりそんな態度を取られて、私はショックを受け、呆然とした。
ごめん、と聡太君は小さな声で呟いた。
「和香子のせいじゃないよ。自分でもよくわかんないけど……弟みたいだとか言われたことがなんか、すげえショックだった」
そう言うと聡太君は降りしきる雨の中を駆け出していった。
「ただいま…」
家に着いたのは午後7時半だった。玄関に聡太君のスニーカーはなかった。揚げ物の匂いがする。
今夜はコロッケかな…
聡太君がいるからお母さんは連日おかず作り、張り切ってる。夏は素麺ばかり食べたがる人なのに。
きっと、聡太君は塾の自習室に行ってるんだろう。
家で勉強に集中出来ない時とか、いつでも行くことが出来るって前に言っていたし。
家族の誰とも顔を合わせず、私は2階に上がった。
ショルダーバッグを放り投げるようにして置いたあと、ベッドに寝転ぶ。
自分がとても疲れていることに、今、ようやく気が付いた。