ビオラ、すずらん、年下の君
聡太君は瞼を閉じた。意を決するように形の良い眉をクッと歪める。
それは何かを我慢しているみたいにも思えた。
喋り出す時はそうなるように、唇の端がキュッと上がった。
「…そっち、好きな人いるの?」
「え?」
突拍子もない質問に、私の口は開いたままになった。
どうしてそんなことを訊くの?
と逆質問をしたかったけど、空気が違う気がして止めた。
「付き合ってるヤツ…いる?」
聡太君が苦しそうに言葉を重ねた。
私の脳裏を羽田さんの穏和な笑顔が掠めた。
羽田さんのことは確かに好き。
今度、温泉にいく約束をした…
でも愛してるの?って訊かれたら首を縦には動かせない。
第一、まだ正式に交際しているわけじゃないし。
この人ならいい夫、いいお父さんになってくれるだろうなと思っている。
結婚相手としてはいいかもって羽田さんを選ぼうとしている私は打算的な女なのかも…
「……いない」
気が付くと私は呟いていた。
「良かった…それなら」
聡太君はすっと立ち上がり、前を向いたまま言った。
「大学合格したら…俺と付き合ってよ」
「え…」
ボンと大きな音が聞こえてきそうなくらい心臓がはねた。
全身の血液がものすごい勢いで体中を駆け巡る。