ビオラ、すずらん、年下の君


「…俺じゃだめか?」

羽田さんがふっと視線を落とした。
その瞬間、私は彼がとても愛しくなって。


ーーそんなことないよ。
イエスに決まってるじゃない…
だから昨晩、私はあなたと……


でも、胸がいっぱいですぐに答えられなかった。


私はすぐに返事をせず、見つめ返した。
羽田さんの右手に持った苺ジャムのトーストがフルフルと震えていた。

緊張してるんだって、気付いた。


いつも飄々としているのに…

そう思ったら、なんだか可笑しくて。笑おうとしたのに先に出てきたのは涙だった。


私はポロポロと涙をこぼしながら笑顔を作った。

羽田さんが言葉にして愛をくれたのだから、私もそれに応えたかったのに、声を出したら大泣きしてしまいそうで出来なかった。


帰りの車の中で、私は羽田さんを
「亮さん」って呼ぶことになった。

いつまでも名字で呼ばれるのがヤダって羽田さんが言い出したから。


そういえば、羽田さんって羽田亮って名前なんだ。当たり前に知っていたけど、改めて声に出すと違う人を呼んでるみたい。

本当は、亮って呼び捨てにして欲しかったみたいなんだけど、いきなりは出来ないからさん付けなんだ…





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