ビオラ、すずらん、年下の君
聡太君とちゃんと喋るの、久しぶりだ。
意外にスルスルと言葉が出てくる。
私はテーブルのそばに正座し、焼きお握りのトレイをとりあえず畳の上に置いた。
ブラッキーが目を覚まし、黄色いガラス玉みたいな目で煩そうに私を見る。
(この猫は昔からちょっと気難しいんだ。でも良い男が好きみたい)
「いや…難問でつまづいた時、ブラッキーの背中撫でると不思議に閃くんだ。イライラした気持ちが落ち着いて、脳みそが冴えてくるんだ」
「そうなんだ」
「和香子、夜遅いのにお握りありがとう…」
聡太君が私がまっすぐに私を見る。
えっ、いきなり見つめないでよ…
動揺隠して。
「どういたしまして。でもタイミングがわからなくて。勉強の邪魔だったかな?」
細字の赤マジックで描いたみたいに聡太君の目のふちが充血していた。
黒眼がちの切れ長の目の形が強調されていて、なんだか泣いたあとみたい。
炬燵テーブルの上には、何冊ものノートと参考書と電子辞書。聡太君、すごいな。ずっと睨めっこするみたいに勉強していたんだね。
こんな時間まで……大変だなあ。
ブラッキーがおもむろに聡太君の膝から起き上がった。
人の話し声がうるさかったんだろう、両方の前脚を伸ばして思い切り伸びをしたあと、ちらりと和香子達の方を見る。
少し空いていた襖の隙間から廊下へ出て行った。