ビオラ、すずらん、年下の君
「…俺、男子高だったし、硬派だったからぶっちゃけ彼女とかいた試しねえな。悪りぃな、参考にならなくて」
「プッ…羽田さんがそんなにモテなかったなんて思わなくて…無神経なこといってごめんなさい」
言いながら、私は堪えきれず、口を覆った手のひらから笑いが漏れてしまう。モテなかったエピソードは私も似たようなものだけど。
「こんにゃろめ…上司を侮辱するとは…どら焼き返せ」
「ふーん、もう胃袋の中だもーん」
ピンポーン…
室内に呼び出し音が響く。
アポ済みのスタッフだ。
「はあい、はい!」
ころりと羽田さんが仕事モードに入り、分厚いバインダーを手に取る。
ある意味接客業だから、羽田さんはいつもスーツに地味なネクタイ姿だ。上着は脱いでいるけど。
「いってらっしゃーい、羽田さん」
「あ」
応接コーナーに向かう羽田さんがくるりと振り向いた。
「佐原さん、一応、伝えておく」
「なんですか?」
何?仕事の話?
「俺ももうすぐ誕生日なの」