ビオラ、すずらん、年下の君
「飲むだろ?」
「飲む飲む!」
35歳独身、彼女なしの羽田さんは、毎朝5時に起きて30分ジョギングしてから出勤するんだって。
ここで飲むコーヒーが朝食代わりだそう。
お母さんの作った朝ご飯を起きぬけでガッツリ食べる私には、到底信じられない。
「あーん、今日も美味しい…」
ここで働くようになって、ふた月。
私は毎朝、こうして羽田さんのいれてくれたミルクと砂糖たっぷりのあったかいコーヒーで和むのだ。
「羽田さん、いいダンナさんになれますよお、絶対!」
自分のデスクで、私は両方の頬杖をついてカップを持つ。
「えへへ…そっかあ?」
向かいでパソコンを立ち上げ慌ただしく仕事の準備をしながら、羽田さんは少し赤くなった。
10歳も年上だけど、カワイイな、とか思っちゃう。
…本当。羽田さんならいい良妻賢母じゃなくて、良夫賢父になれそう。あ、そうだ!ちなみに。
「羽田さんて、子供好きなんですか?」
「えっ?子供?」
突拍子もない私の質問に羽田さんの顔面はますます赤みを増す。黒ぶちの眼鏡が少しずり落ちてきた。
「…まあまあ好きだよ。3年前、姉貴夫婦に子供生まれてからは、ますます好きになったかな。姪っ子なんだけど、可愛くて仕方ないね」
へえ。やっぱり。