ビオラ、すずらん、年下の君
私の家は両親、祖父、私の4人家族。うちの家族構成の話をしたのは、ずっと前、入社したての時に一度だけなのに…憶えててくれたんだ。
「これは、レモネード・タルト・タタン。こっちは沖縄完熟パイン入りチーズケーキ。こいつは、5種のフルーツシフォンケーキ。で、こっちはアムールメロンと桃のサワークリーム入りオムレット…」
「すごい、すごーい!羽田さんて、本当記憶力良いですね!」
「え、そっちかよ?」
バチパチと手を叩く私に、羽田さんは呆れ顔をした。
羽田さんの最大の長所。
それは抜群の記憶力。
ろくにメモってる形跡もないのに、アポの時間やなんか間違えたことがない。
ちっぽけな会社の支店とはいえ、人材派遣という業務をほとんどいない上司達に代わって、実質1人で切り盛りしてるのだから、羽田さんて見かけによらず(失礼)キレモノなんだ。
確か前にした雑談の中で、ご実家は隣の市で自営業をしてて、義兄さんが後を継いでいて、なんとなく家に居場所がなくて、大学を卒業しても戻らず、そのまま1人暮らし続けてるって話だった。
……確か。
っていうのは、この話を聴いていた時、私は聡太君のことで頭がいっぱいで上の空だったんだよ、ごめんなさい……羽田さん。