ビオラ、すずらん、年下の君
ああ、もっと気の利いたセリフないかな。優雅でウィットとやらが効いた女子力満載のセリフ。
「おばあちゃんがケーキ作るって張り切ってたんで、今日は早く帰ります」
いつも天気やテレビの話とか、当たり障りのない世間話なのにプレゼント効果なのか、聡太君は自分のことをきかせてくれる。
「へえー素敵なおばあちゃんだね」
「父がロンドンに転勤になって。母も一緒に付いてっちゃったんで、俺は受験もあるし、4月からおばあちゃんの家で暮らすことになったんです。ずっと1人暮らしだったから、孫の俺と暮らせるのすげー喜んでて」
「ロンドンかあ、遠いもんね…」
ロンドンって確かユナイテッドキングダムだよね、霧が多いっていうし、食事はイマイチみたいだし、どっちかといえば日本のがいいよね?
「ところで、聡太君ってどこに住んでるの?」
プライバシーを考慮し、今まで訊きたくても踏み込めなかった部分だ。警戒されても嫌だったから。でも、今なら訊ける。
「四つ角にある吉田煙草店。知ってる?」
えーっ!と私は声を上げた。
前にいたおじさんが振り返ってこっちを見た。慌てて口を塞いだ。
知ってるも何も。