ビオラ、すずらん、年下の君
「吉田…煙草店なら吉田稲子さんのお家じゃない?うちのじいちゃんのゲートボール仲間なんだけど」
「あ…それ、うちのおばあちゃんっすよ。ゲートボール命っす」
驚いてパチパチさせる聡太君。
「世間は狭いっすね…」
狭いどころじゃない。20年前、妻を亡くして男やもめのおじいちゃんは吉田稲子さんに夢中なんだ。
稲子さんは市毛良枝似のとっても上品なおばあちゃん。
10年ほど前から煙草を吸わないくせに、しょっちゅう吉田煙草店にガムを買いに行っていることからうちの家族の中では公然の秘密だ。
(おかげで家は消費できないガムがいっぱい)
でも、残念ながら稲子さんには老人会の仲間&お客様としか見てもらえないみたいだ。
5年ほど前に始まった老いらくの恋を、私を含め家族中で見て見ぬふりをしている。
(じいちゃん、お金にセコイし、頑固野郎だから。まあ無理だね!)
変な接点が見つかったところで、バスは駅前ロータリーに滑り込んだ。
すっと立ち上がる聡太君。
ああ、行っちゃうんだ…
大きく膨らませた風船が萎んでしまう気持ちになった時。