ビオラ、すずらん、年下の君
目が覚めると、隣に裸の羽田さんがいた。
…というベタな展開にはならないのでした。
歓迎会の夜、羽田さんから告られた私は「……少し考えさせて下さい」と答えた。
そして、人混みの午後10時前に駅の改札にて「お疲れ様でしたあ」「気を付けてね」「ご馳走さまでした」「おやすみ」なんていう会話を交わしたあと、酒くさいながらも爽やかに別れたのだ。
連休明けから、聡太君はバス停に来なくなった。
蝉が鳴くポプラの木の下で、世間の学生は夏休みに入ったのだ、と気付いた。
そっかあ…9月まで会えないのか。
有言実行の羽田さんは、2週間後に依願退職した。
私のお気楽なOL生活に徐々に暗雲が立ち込めてきたのは、その直後から。
羽田さんの代わりに、馬場友(ばばとも)さんというふざけた名前の男(前エリア・マネージャーで面識はある)が私の向かいに座ることになったのだ。
頭を整髪料で固めたアラフィフの独身男。この年齢になると性格の悪さが顔に出るんだな、と痛感した。エゴの塊。変な芳香剤みたいな香水プンプンで清潔感がまるでなかった。
以前、面接でひと目見た時から生理的に合わないな、と思っていたのに、まさか
毎日顔を見ることになるとは。