ビオラ、すずらん、年下の君
吉田聡太18歳の章
制服のブレザーを羽織り、朝ご飯代わりのウィダーインゼリーを飲み干した。素早く紺色のネクタイを結ぶ。校則、厳しいけど、少しだけ緩めに。
ーーもう出なきゃ、ヤバい。
昨夜というか、正確には今日寝たのは午前1時半くらいかな。寝不足の瞼を擦りながら急ぐ。今朝もなんとか間に合った。
ポプラの樹の下で彼女は、いつものように先にバス停にいた。俺の顔を見ると、ふっくらとした唇の両端がクッと持ち上がり、柔らかい弧を描く。
その瞬間、景色が変わる。周囲の暑さがパッと消え失せ、俺は立ち止まる。凶暴になりかけの太陽はなりを潜め、ポプラの木洩れ陽が優しく彼女を包む。
「おはよお」
なんだか…例えるなら、小さな花を見つけた気分。
「……おはようッス」
ーー今日も逢えたね。
斜に構えつつ、冷静に見せながらも頭の中は混乱気味だったりするんだよ。
ーー何か喋らなくちゃ…
でも、そんな心配は不要。
バスの奥の2人掛けシートに並んで座り、しばらくすると彼女から話を振ってくれる。
「いつもお昼はどうしてるの?
お弁当なの?」とか他愛のないとコト。
俺は「…コンビニか購買で買うんで」
なぜだか愛想のない答えになっちまう。