ビオラ、すずらん、年下の君
これまで経験したことのない感情。
優しい人になりたい。包容力とやらが欲しい。どうしたらいいんだ?
「よーしーだ君!」
取り留めのないことを考えている俺の前にいきなり、路地から制服姿の女が現れた。知ってる顔。
「ああ、袴田」
袴田涼子は背が高く、髪をポニーテールにしてる。目が大きくてアイドル顏だけど、俺はわかこみたいな、さっぱりした顔の方が好きかな。
実はひと月前に、俺は袴田をフったばかりだったりする。コッチは少し気まずいんだけど…ソッチは気にしないのかな?
「イヤだあ、すごい偶然!」
「…偶然だね」
「そうそう、偶然!あ、ね、吉田君、そういえば相談があるの。良かったら、聞いてくれないかな?」
真っ赤になって上目遣いに言う袴田涼子。でも、偶然も何も…待ち伏せしていたのはミエミエ。
「何?」
家まであと3分くらいの距離で足止め食った俺は少し意地悪な気持ちになる。
「俺、あんまこういうの、人に見られたくないんだけど」
たまに店番するから、お客さんに見られたら彼女といちゃついてるとか思われちまう。おばあちゃんに告げ口でもされたら面倒だし。
「……ごめん」
しおらしく、まぶたを伏せる袴田。言い方、冷た過ぎた?