ビオラ、すずらん、年下の君
「あ、部活でやっちゃって」
口角がクッと上がる。
何も塗っていないのに、コーラルピンクの形の良い唇が意外に大胆に横に広がり、綺麗な歯並びが見える。
長いまつげ。すっとした鼻。
見れば見るほど、爽やかな少年。
「部活って何をしてるの?」
私が尋ねた時、オレンジと黄色の車体が滑り込んで来た。
早く乗れと言わんばかりにプーと音がしてドアが開き、私はパスモを取り出す為にバッグの外ポケットを探る。
ああ……残念。もう少しお喋りしたかったのにな。いつも遅れる癖に。イジワルだなあ、バスめ。
「お先に」
カッカッとヒールの音を立ててステップを駆け上がり、後ろを振り向くと、後から続いてくるはずのハルマくんが乗り込んで来ない。
柳眉を寄せ、あたふたとスポーツバッグの中を探っている。
「やっべえ…定期も財布も忘れたらしい」
その独り言を聞き逃さなかった私は、つい叫んでいた。
「ね、乗りなよ!部活、遅れちゃうから!私、2人分払うって!気にしなくていいから!早く!」
…なんかキップの良い下町のおばちゃんみたいだ。
ハルマくんは一瞬、戸惑ったけれど、すぐに小さく頷いて、長い足をバスのステップにかけた。
車内には、先客が2人くらい前の方にいた。