ビオラ、すずらん、年下の君
「袴田…」
どうした?と言いかけた時、ピンク色の唇から言葉が漏れた。
「やっと…」
蚊の泣くような声。
「吉田君、私の方を見てくれた…」
ゆっくりと顔を上げた袴田は、目の淵と鼻の頭を赤くしていた。
「…なんで?」
俺は冷たくなったピンク色の液体を飲み干した。言い方が不機嫌な感じになっていたかもしれない。
「ごめん。でも、悲しくて涙が出るんじゃないの。やっと…やっと
私をちゃんと見てくれたなって。嬉しくって」
袴田は紙ナプキンで目頭を押さえた。俺はといえば、記憶にないくらい久しぶりに見た女の涙に意表を突かれ、言うべき言葉を必死に探す。
「分かんねえ。嬉しいのに、なんで泣くの?ていうか俺はお前のこと見てるよ?」
「…違う、見てない。私、気付いてた。吉田君、私を見てない。ずっと誰かを探してる。今日、会ったときからずっと。
…でも、私は気にしない。吉田君と友達でいたいから。ただの友達でもいいから。こうやってお喋りするだけで何もいらないくらい幸せだから」
白いティーカップの柄をもつ白い指が小刻みに震えていた。
誰かを探してる…
どきりとした。知られたくない小さな秘密を見られてしまったような気まずさ。