ビオラ、すずらん、年下の君
駅のホーム、ショッピングモール、映画館。
あの人に似ている後ろ姿に自然に心が惹きつけられる。
ーー袴田を女として愛せないのは、あの人がいるから。
今日、俺は確信した。
バスの時間が迫っていた。
ロータリーからは各方面にバスが運行されているけれど、俺が利用するルートは午後8時を過ぎると1時間に3本ほどになってしまう。
でも、コンビニに寄ってコーラを買いたかった。おばあちゃんの店にもコーラはあるけど、あのボロ冷蔵庫はイマイチ冷えてない。
(冷え過ぎた飲み物は身体に悪い、という考えでスイッチを『弱』にしている)
改札を出て、コンビニがある方に歩き出した時。
紺のフレアスカートに白いパンプスを履いた若い女の後ろ姿が目に入った。
その瞬間、ギュウッと心臓が搾られるような感覚に襲われた。
中肉中背。少し茶色かがったセミロングヘア。
似ていた。佐原和香子に。
彼女が立ち止まり、顔を上げた。
…いや。和香子だ!間違いなく。
俺の心臓は、ドクドクと音を立てる。こんな時間に逢えるなんて。
神様、ありがとうという気分。
後ろから近づいて、肩を叩いて脅かしてやろう。