ビオラ、すずらん、年下の君
お爺ちゃんの片想いと15年前の出逢い
8月に入ったばかりの日曜日。
午前10時。
リビングからお母さんの大きな声がした。
「おじいちゃん!出掛けるんなら携帯電話持っていってくださいよ!」
やっと起きて、朝ご飯を食べに一階に降りた私は廊下で爺ちゃんとぶつかりそうになった。
うちの爺ちゃん、佐原源二郎 御年75歳。つるっぱげの頭にパナマ帽を被り、ペンギンマークの付いたポロシャツ。灰色のスラックス。夏の爺ちゃん、お出掛けオシャレファッションだ。
「おっと。和香ちゃん、わりぃ」
「爺ちゃんたら、お母さんに心配掛けちゃダメでしょ?ちゃんと携帯電話持って!」
私は怖い顔をした。
爺ちゃんは、初孫である私にとても弱い。
「はあ、メンゴメンゴ」
お母さんが白いシルバーフォンを持ってきた。
「この頃もの忘れ激しいから、いつ徘徊老人になるか分からない。それなのに、行き先も告げず、出掛けて行くんだもの。他所さまに迷惑掛けたら大変!」
お母さんにとって爺ちゃんは、義理の父だけど昔っから上から目線なのだ。
「ところでどこに行くの?」
「イヤー」
私の質問に爺ちゃんは、なぜか照れて言葉を濁した。