ビオラ、すずらん、年下の君
レトロな木の棚は当時のままだけど、チョコレートやカレーのルー。アルミホイルにラップ。本当に数えるくらいの品物しか置いてない。

食べ物なんか…賞味期限大丈夫かしら?って感じ。


もうこの店は完全に商売を放棄していた。
そりゃそうだ。若く見えるけれど多分、吉田稲子さんは60オーバー。金儲けは二の次で趣味でやってる店なんだろうな。

その証拠に店内には幾つか木の椅子が置いてある。


ここは老人達のサロン。常連客と井戸端会議をする為のスペースだ。


「はい、どうぞ」

カラカラと涼しげな氷の音を立てて、おばあちゃんが冷緑茶を運んで来てくれた。
抹茶入りのそれは綺麗な深緑色。抹茶好きの私は、喉の渇きもあって一気飲みのようにして飲んでしまった。


そんな私を見て、稲子おばあちゃんはフフフと笑った。


「お代わり、持ってくるわね」

「…あ、いえ、もう大丈夫です…」


私はガラスのお茶碗をお盆に戻した。がっついてしまった自分が…恥ずかしい。


「まあまあ、和香子ちゃんもいい娘さんになったこと。お母さんに似て美人さんね。源さん、これから先が楽しみだわね」


母屋へと続く畳敷きのスペースで正座をした稲子おばあちゃんは、うちの爺ちゃんと私を交互に見ながら、しみじみとした口調でいった。




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