ビオラ、すずらん、年下の君


お父さんは自分の指定席である聡太君の向かいに腰を下ろし、バサバサも新聞を広げた。文字を追いつつ、質問タイムに入った。


「吉田聡太君か。大学どこ狙ってるんだ?」


「…一応T大学です」


お、すごい。難関じゃん。


「…そうか。肉は好きか」


お父さんはぶっきら棒に訊いて、お茶をすすった。


「…はい、好きです」


奇妙な質問に聡太君は少し驚いたみたいな顔している。

あっ、もうお父さんたらもっと愛想良くしてよ…大事なお客さんなのに。
それじゃ聡太君が勘違いしちゃうよ。


「じゃ行ってくる」


お父さんは腕時計を見て、立ち上がった。

スーツの上着をお母さん着せてもらいながら、

「聡太に肉をくわしてやれ。受験生だから、体力付けないと」

と指示をした。


「はい。分かりました」


にこにこ笑うお母さん。


「私、会社の帰りにケーキ買ってくる。今夜、聡太君の歓迎パーティーしよ!」


私は自分の食べ終えた皿を流しに置いた。もう、声が弾むのがどうしても抑えられない。


素敵な男の子って、なんで皆をこんなにハッピーにするんだろう。

バラバラの家族が、久しぶりにひとつにまとまった気がする……





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