【短】あたしを姫と呼ばないで!?
朝、二人がクラスに入ってきたその瞬間。
いつも以上にすさまじい黄色い歓声があがった。
そして二人に駆け寄る女子の群れ! 群れ!! 群れ!!!
今年もバレンタインデーなんてものが始まったんですね……と遠くを見つめてあたしはそんなことを思ったのだった。
それでも上には上がいるらしく 今度は外から 『キャー!』なんてかわいいものではなかった。
『ぎゃぁぁあぁぁぁ!!!』と「どこからそんな声が出るんですか!? 」と思わず突っ込んでしまうほどの雄叫び声が聞こえてきた。
ちらりと視線を送れば、その先にいるのはヒナタ先輩とカケル先輩。
教室にも入ることができないなんて災難ですね、なんてあたしは憐れんだものだった。
そして今度は一年棟から聞こえてくる歓声。
確認しなくても分かる。
これはユウヤくんに対する歓声だ。
ユウヤくん……普段は大人しいのにこんな行事のときだけ騒がれるのも どう思うのかな?
先輩として、友として 思わず心配からため息が出てしまった。
そしてあたしが座っていた席の周りにも女の子が集まった。
なんでだろう?
すぐに謎は分かった。
「あ、あのことりちゃん、チョコレート……カケル先輩に渡してくれないかな?」
「わたしのものはヒナタ先輩にお願いしたんだけど……」
直接本人に渡す勇気がない子たちがあたしにチョコを渡してくれるように頼みに来たのだった。
ホントはその子が渡せればいいんだろうけども仕方がない。
ニコリと微笑む。
「いいよ!
あたしがしっかりと二人に放課後になっちゃうけれど渡しておくね」
「ことりちゃん ありがとう!」
あたしが持参した紙袋にチョコを入れるように二人にお願いした。
こんなこともあるだろうと準備をしていたあたしは抜かりない。
思わず自画自賛。