君の隣でクリスマスを祝う
 時には、無理難題を押し付けられることもあった。

 戦中、戦後を舞台とする作品を書いていた時は、当時の資料を幾らでも欲しがった。

 私は仕事の伝手をたどり、時には古書店街を一日中歩き回り、何とか彼の求める物を探し出した。

 日向にはいい作品を書いてもらいたかったし、事実彼は、新刊を出すたび話題になり、売り上げを伸ばした。

 手応えを感じた私は、次第に彼との仕事にのめり込むようになった。

 結果、結婚まで考えた三年来の恋人を失ったりもしたが、私は今までにない程仕事に遣り甲斐を感じていた。

 これも全て日向のおかげだ。私は、今の自分に満足している。

 でも、ふとした時にどうしても寂しい気持ちは押し寄せる。寒さを感じるようになったこの頃は、言い様の無い人恋しさを覚えていた。

 激務の夏を越え、秋口に出した日向の新刊が無事ヒットし、少し気が抜けていたのかもしれない。

 私は件の彼と別れて以来久々に、胸にぽっかりと穴が開いたような感覚を味わっていた。

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