君の隣でクリスマスを祝う
 今日は朝から会社に顔を出した後、新刊出版以来初めて、日向の部屋を訪れることになっていた。ここ数日、編集長から「そろそろ新作の連載を」と急かされていたからだ。

 日向もたまにはまとめて休みを取りたいのか、編集長直々の催促にもなかなか応じてくれないらしい。

 私は彼のご機嫌を取るために、彼が好むブーランジュリーでバケットを購入し、それに合うワインや他の食材も買い求め、彼の部屋を訪れた。


 見物人も大勢訪れるほど有名な銀杏並木を見下ろすマンションの最上階が、日向の部屋だ。紅葉の時季に彼の部屋から覗いたら、きっと下界は一面が黄色い絨毯の様に見えるだろう。

 だけど扇型の葉はどこもまだ青くて、全てが黄色く色づくまでにはもう暫く時間がかかりそうだった。


 広いエントランスに入りインターフォンで来訪を告げると、応答はないままでドアの施錠が外れた。

 もしかしたら、日向はまだ寝ていたのかもしれない。
 声を発する気も起きないほど、寝起きで機嫌が悪いのかも……。

 一瞬の躊躇の後、私は怒られても仕方がないと腹をくくり、日向の部屋へと続くエレベーターのボタンを押した。

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