泥酔彼女

一人暮らしの彼女の家に行くのは、実はこれが初めてだ。
彼女がまともな状態なら、今まで通り友達の顔を貫いて、車から降りたりしなかったろう。

だがこの大トラは、俺の期待を裏切らない。

泥酔のよちよち歩きを黙って見過ごせるはずがない。
これは決して下心ではない。

自分に言い聞かせながら彼女に肩を貸してエレベーターの前まで進んだ時。

へたり込んだ彼女が俺を見上げてくる潤んだ眼差しに、正直心臓が跳ねた。

相手は酔っ払いだぞ、落ち着け。
口の中で唱えるが、その細腕がまるで俺を抱き寄せたがるように回されたら、理性が吹っ飛びそうになる。

こんな大トラでも、可愛いものは可愛いんだ畜生。

こんなに隙だらけの彼女の顔を間近で見てしまったら。
俺は多分、今までの心地良い関係をぶち壊す行動に出てしまう。

こういう事は順序が大事なんだ。特に俺達の間では。

きちんと然るべき状況で告白してから色々すべきなんだと思う。
彼女との今の関係を守る為に、それは絶対不可欠だ。

だから思わず抱き締め返したがる自分の腕を途中で思い直して制し、担ぐ動きにシフトしたのは、我ながらGJだった。グッジョブ俺。

人の気も知らないで、彼女は肩の上で大人しい。
……静かすぎる気もするが。


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