泥酔彼女
「おい、大丈夫か」
「……ちょっと、あの、色々逆さまで、……吐きそうデス……」
「バカ! 吐くな! あと一分待て!」
確かにこの運び方は女子に対してひどいが、構っていられなくなった。
エレベーターに飛び乗った俺は、彼女のバッグを勝手に漁って鍵を探しながら部屋番号を聞き出す。
箱が目的の階に着いたら早足で廊下に出て、目指す部屋に一直線だ。
我ながら気持ちいいぐらい手早く彼女の部屋を見付け、鍵を開ける。
ワンルームの玄関に勝手に踏み込み、慣れない部屋で担いだ彼女の身体をベッドの上に転がすまでの流れは、日本代表に選ばれても良いぐらい迅速だった。
肩で息をしながら、ベッドに仰向く彼女を見下ろす。
「おい酔っ払い。水飲んで押し出すか。洗面器持ってこようか」
「吐くの前提で言うのやめてもらえますか」
「そりゃ吐かない方が望ましい。俺も見たくない。できれば飲み込め」
「飲んだらドン引きする癖に…!」
「だから洗面器要るかって聞いてんだよこのタコ!」
こいつはこんなに酔っててもいつもと調子が変わらない。
まあ、少し安心するが。