楓の季節
初めて踏み入れる大学のキャンパス。正門から入ると、両脇に桜並木が続く。
カメラを持って来ればよかったな…こんなに綺麗な風景を写真に収めないのは勿体無い。そう思うくらい、4月の桜は満開で綺麗だった。
桜並木を抜けると、右手に建物が2つ、左手に緑の綺麗な芝生の丘がある。さらに進むと、道が十字に交差しているところに出る。
入学式が行われる講堂は、そこをさらに進んだところの一番奥にある。
講堂の入り口には、スーツ姿の人々と、フォーマルな格好をした保護者と思しき人たちであふれていた。


入学式の後は、学部説明会があるらしい。
合格通知と一緒に送られてきた案内に書いてある通りに、学部説明会が行われる場所を探す。
講堂を出て左に進むと、右手に煉瓦造りの建物、左手に白く上がドームのようになっている建物がある。私の学部説明会が行われるのは3号館のはずだけど、その煉瓦造りの建物の入り口に「3」と書かれているので、たぶんここが3号館だろう。
エレベーターで5階に上がり、説明会が行われる教室をみつけて、席に座る。
周りには藤ノ宮高等学校から上がってきた人たちが多いらしく、知り合い同士でグループに固まって喋っている。
教室の入り口で、たくさん資料が入っている封筒を受け取る。
中身を見てみると、『履修登録の方法』『新入生歓迎会のお知らせ』『班分け表』など、色々な資料が入っていた。

時間になると、ぞろぞろと教授と思しき人たちが5人ほど入ってきた。そのうちの3人は外国人だったけれど、そのなかの日本人の教授が、マイクをとって喋り始めた。
「みなさん、藤ノ宮大学国際教養学部へようこそ。皆さんはこれから、ここで、この人たちと一緒に4年間を過ごすわけです。最初は授業になれなかったり、高校とは違う人間関係、新しい経験などで戸惑い、時には疲れてしまうこともあると思います。でも、あとになったら、思い返して懐かしさしかこみ上げないほど、この4年間は長いようであっという間なのです。悔いのないように、自分のやりたいことを、好きなように思う存分やってください。やりたいことに意味があるか、意味がないか、それはその時にはわからないかもしれませんが、とにかくやってみることに意味があることは確かです。楽しい4年間をお過ごし下さい。申し遅れましたが、僕はこの学部の学部長を務めております、北村と申します。こんな顔をしていますが、ご安心ください、ちゃんと英語はしゃべれますので、授業が聞き取りにくいなんてことはないはずです。」
あちらこちらで笑い声が上がる。
そのあとも、残り4人の教授の挨拶が続いた。聞いていられたのは学部長の挨拶だけで、あとの4人の話はどうしようもなくつまらなかった。朝が早かったこともあり、うつらうつらとし始めた頃に、最後の人の挨拶が終わった。
「では、あとはサポーターたちに任せるとします。また授業開始日に会いましょう」
学部長がそう言うと、教授たちはぞろぞろと教室を出て行った。

これから何が始まるのだろうと思っていると、1人のスーツ姿の男の人が入ってきた。
すごく綺麗…。一番最初に感じた感想はそれだった。
男の人に綺麗、なんていうのはおかしいかもしれないけど、本当に綺麗なのだからしょうがない。
顔立ちがはっきりとしていて、外国の血が入っているのではないかと思うくらい、日本人と比べて彫りが深かった。目はぱっちりとしていて、肌も女の私が羨ましいくらい綺麗。
髪の毛は、あまり見かけないアッシュグレーだった。
天然なのかな、それとも染めているのかな…?
あの色に染めるのはとても大変だと聞いたことがある。髪の毛をブリーチして色を抜いてから、灰色を入れなければいけないが、すぐに色が落ちてしまうため、維持するのがとても大変なんだとか。
でも、この人の髪の毛は傷んでいる様子はなくて、ツヤがあって綺麗に見える。
ってことは天然?
そんなことを考えていると、その人が喋り始めた。
「こんにちは。3年生の橘一(たちばなはじめ)って言います。今年のサポーターチームのリーダーを務めさせていただきます。サポーターって何?って思う人が多いと思います。サポーターはみなさん新入生が新生活に慣れるためのサポートをするのが仕事で、履修登録を手伝ったり、学校の中を案内したり、他にも困ったことがあったらなんでも相談にのります。試験期間になったら、勉強の手伝いなどもやっています。じゃあ、他のサポーター達も紹介します」

そういうと、教室にさらに9人のスーツ姿の人たちが入ってきた。
「この人たちが、みなさんの学生生活をサポートします。じゃあ、班分けするので、あらかじめ配られた紙に書いてある通り、班ごとに分かれてください。各サポーターが番号が書いてある看板を持っているので、そこに行ってください」

先ほど配られた紙を見てみると、私の名前は1班の場所に書かれていた。
1班のサポーターは、先ほど喋っていた橘一という人だった。
そのひとのいる場所に行き、手近な椅子に腰をおろす。
私の後に、4人の人がやってくる。男の子が2人、女の子が2人だった。
新入生50人が10つの班に分かれたのだから、1つの班には5人ずつ。
橘先輩は、全員が揃ったのをみると、にこっと笑ってから口を開く。
「みんな揃ったみたいだね。僕は、さっきも自己紹介したけど、橘一と言います。これから1年間みんなのサポートをします。学年は3年生で、サークルは弓道部に入っています。よろしくね」
橘先輩は背が高くて格好いいから、弓道の袴を着ていたらすごく似合うだろうな。
「じゃ、順番に自己紹介してもらおうかな。高等部から上がってきた人もいるだろうから、知り合いもいるかもしれないけど、新しい人もいるから一応ね。簡単に名前、趣味、興味のあるサークルとかを言ってもらえる?」
興味のあるサークル、か…。今までずっとダンスをやっていたから、ダンス部には興味があるけど、大学のダンス部には飲みサーが多いと聞く。
弓道は中学校の部活でやっていたけど、かなり長い間やっていないから難しいかな。でも、嫌いではなかったからもう一度やってみたい気持ちもある。
あとやっていたことといえばヴァイオリンとピアノだけど、ピアノで入れるサークルはなさそう。
ヴァイオリンだとオーケストラとかかな。
そんなことを考えているうちに、私の横の人が立ち上がった。
「夏目彰斗(なつめあきと)です。付属高校から受験しました。趣味は運動です。ていうか、体を動かすのが好きかな。サークルは、サッカーのところに入ってみたいと思っています。よろしく」
そう言って座る。
次は私の番だ。
「御園生楓です。趣味は写真を撮ることと読書…です。入りたいサークルは…」
そこで詰まってしまった。
すると、橘先輩が助け舟を出してくれる。
「なにか、今までやっていたこととかないの?習い事とか、部活とか」
「習い事は、ヴァイオリンと、ピアノ、ダンスをやっていて…中学の時に部活で弓道をやっていました」
「へぇー、いろいろやってんじゃん。僕がいる弓道部にも入れるよ?」
麗しい顔に爽やかな笑みを浮かべて言う。
「弓道部にも興味はあるんですけど、今までやってみたことのないものにも挑戦してみたくて。茶道とか、写真部とか…」
「うんうん、迷うよね。いいのが見つかるといいね」
橘先輩はそう言うと、
「じゃあー、ざっとこれからの予定について説明するね。明日の夜には学部別新入生歓迎会があるから、『新入生歓迎会のお知らせ』って書いてある紙を見てくれる?じゃあーーーー」

そのあとも、色々とこれからあるイベントや、学内の説明、履修登録における注意などが行われ、最後に班の全員がメールアドレスを交換して、学部説明会は終わった。
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