楓の季節
1時間半ほどで、入間にあるアウトレットに到着した。
「さあさ、今日はどこから回る?」
聖兄がウキウキと樹兄に聞く。聖兄は、樹兄がいないときはそんなにおふざけをすることなく、頼り甲斐のあるお兄さんをやっているけど、樹兄がいる時はいかにも「樹兄の弟です!」って感じに振る舞う。
「とりあえずBanana Republicでも行くか?」
「らじゃー!」
聖兄は元気良く返事をすると、せかせかとお店に向かう。
お父さんとお母さんは、2人でゆっくりとお店を回るため、私たちとは別行動になる。
Banana Republicのお店に入ると、すでに聖兄は中で色々と見て回っていた。
「ねえねえ、楓、これ絶対似合うと思うんだけど!」
聖兄がそう言って持ってきたのは、半袖の白いトップス。
ハイビスカスのお花の形に生地が透けていて、中にタンクトップとかきたらすごく綺麗だと思う。
「いいんじゃない?楓、試着してきたら?」
「うん、そうする」
服を試着室に持って行き、着てみる。サイズもぴったりで、カットも綺麗。

着てみてから、樹兄たちに見てもらおうと試着室のドアを開けると、すこし離れたところに樹兄が壁にもたれかかって、聖兄がその正面に立って話していた。
樹兄は、細身のブラックジーンズを穿き、白いシャツの上から灰色の薄いセーターを着ている。
聖兄は、白地にカラフルな模様がついたグラフィックTシャツにジーンズ、その上から紺色のパーカーを羽織っている。
二人が並ぶとモデルみたいだなぁと思っていると、私が出てきたことに気づいた樹兄が近寄ってきた。
「お、似合ってんな?サイズも形もぴったりだし」
「これは買いだね?」
「そうだな」
樹兄と聖兄はさっさと買うことを決めてしまった。値札を見ると、トップス一枚にしてはそれなりのお値段がする。
値札をチェックした私を見た樹兄は、
「高いから、とかいうのは受け付けないからね?着替えておいで」
と言って、私が言おうとしたことを先回りして封じてしまった。

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そのあとも、いくつかお洋服屋さんを見て回り、2、3着ほど買ってもらってしまったあと、Afternoon Teaでハーブティー用のポットとカップを買った。ついでにキンモクセイの香りのルームフレグランスもあったので、それは自分のお金で買った。
Afternoon Teaを出た後、FrancFrancでフォトフレームを見ていると、お母さんから電話がかかってきた。
「もしもし、楓?今どこにいる?」
「今はFrancFrancにいるの。あのね、樹兄にお洋服を4着くらい買ってもらっちゃった。あとね、前から欲しかったハーブティーのポットとカップも買ってもらったの」
「よかったじゃない?樹にとっては楓に貢ぐのが楽しみなんだからいいのよ。ところで、今日はお母さんが楓と一緒に買いたいものがあったの。アウトレットの真ん中の辺にある噴水のところで待ち合わせしましょ?」
「うん、わかった」
私は電話を切ると、樹兄と聖兄に、お母さんと待ち合わせすることを伝えた。

待ち合わせ場所に行くと、お父さんとお母さんが待っていた。
「じゃあ、楓は私と買ってくるものがあるから、樹と聖はお父さんと一緒にどこかで適当に時間を潰しててちょうだい」
「え、俺らも行くよ?」
聖兄が言う。
「だめよ。男の子は付いてきちゃだめ。いくら兄だからといっても、妹の下着を買うのについてきたらまずいでしょ?」
お母さんが笑っていう。
「あ、なるほどね。じゃ、また後でね」
樹兄はそう言うと、聖兄とお父さんを連れて、どっかに行ってしまった。

「お母さん、下着、買うの?」
「そうよ。大学生になったんだから、ちゃんとした下着を2、3枚は持っていたほうがいいでしょ?」
そう言うと、ショーウィンドウに色とりどりの下着が展示してあるお店へ入っていった。
確かに、ここに樹兄や聖兄がいたら、かなり気まずい思いをするだろうな。
お母さんは店員さんを捕まえると、
「すみません、この子のサイズを測って欲しいんですけど、お願いしてもいいですか?」
「かしこまりました。では、こちらにどうぞ」
店員さんは私を試着室に案内してくれた。
試着室に入ると、上半身の服をブラ以外全部脱ぐように言われた。
ちょっと恥ずかしかったけど、下着屋さんだからしょうがない、とあまり気にしないようにしていた。
「アンダーが65の、Eですね」
あれ、いま使っている下着のサイズはなんだっけ…
ずっとユニクロのブラを使っていたから、あまりちゃんとしたサイズはわからない。でも、なんか最近きついとは思っていた。
試着室の外に出ると、お母さんが「いくつだった?」と聞いてきた。
「Eの65だって」
「あら、楓は細いのに必要なお肉はちゃんとあるのね。うらやましい。じゃあ、選びましょ」
いくつかの種類を見て回って、4種類買うことを決めた。
白のトップスの下でも着れるように、真っ白でシンプルだけど上品なレースがついたもの。
私の大好きな色の、ラベンダー色の生地に、同じ色の小さなお花がついたもの。
淡い黄色の生地に、パステルカラーのお花が刺繍してあるもの。
あとは、すこし買うのをためらったけど、お母さんにすすめられた、黒のレースでできたもの。
全部で幾らになるのか、すごく気になったけど、お母さんは
「気にしちゃダメよ」
とか言って、お会計の時にも値段を見せてくれなかった。


アウトレットで買ったものを一旦車に置いてきたあと、隣にあるコストコに寄って、食材や生活雑貨を買った。
お買い物が終わったあとは、その大荷物を車に積んで、帰路につく。
帰りの車の中では、アンドリュー・ピーターソンの『Counting Stars』の優しい旋律に誘われて、ぐっすりと眠ってしまった。
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