プリンセスになりませう!?
多くの旅行会社は出航の2時間前に受付を始める。

葵も、もしそれが旅行だったら、あらかじめ分かっていたのなら、余裕を持っていたはず。

ギリギリの到着なのは深い理由がある。

それはほんの2時間前の事


「葵、ここに来てお座りなさい」

いつも厳格な祖母のマサ子がデパート勤務から帰宅してすぐの葵を呼び出し、目の前に正座をさせた。

「何でしょうか?」

着物の襟元をキッチリとしめ背筋を伸ばし隙すらない厳格なる姿で


葵を一瞥すると抑揚のない声で話し始めた。


「この着物を直ぐに愛華お譲様にお届けいたしなさい」


「お届けはどちらでしょうか?」

1週間前にフランスに行かれ、今朝帰国のはずだった

届けるということはこちらに帰宅はしていないこと。


「ニューヨークです」

「ニューヨーク あ、あたしが…ですか?」


アメリカに? 思わず言葉が詰まる

愛華さまがYNにいるとは葵は寝耳に水だ


大学生活を自由気ままにしている彼女の行動は爛漫で今さら驚くことはないが、

葵が疑ったのは『着物を届ける』という言葉 


それも葵がNYに、今すぐ。


「この部屋に葵しかいません。

わたくしが他に誰に語っていると?

麗華お嬢様は明日に必要だと、そうお申しですので今すぐに出発致しなさい」


激しい口調で厳しく叱咤され、「いざという時の為に用に用意しておき正解でした」と

目の前のテーブルにパスポートと旅券を置かれる。

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