陽のあたる場所へ


「海野ーッ!!」

朝一で沙織を呼ぶ怒声が事務所内に響き、震え上がりながら、社長のデスクへ向かう。

一応、最低限の常識は持っているらしく、年上の社員には普段は苗字の後に『さん』をつける。
しかし、怒っている時は、それがなくなるので、尚更分かり易い。





沙織は、編集部で数人の作家の担当をしている。
作品の執筆依頼をしたり、企画物になると、趣旨を説明する所から、作家と共に構想を練ったり、その手助けをすることもある。
そして仕上がった原稿の内容を、細部に渡ってチェックするのが主な仕事だ。


龍司は、元々、支社で勤務していた頃から、企画・編集の仕事に就いていたので、この専門分野に関しては、多いに口出しをしたい、と社長に就任した時から公言していた。

そういう理由もあり、以前は総務部にあった社長の事務所用のデスクを、編集部の沙織達が机を並べている島の前に移動した。

これまで気楽に仕事していた訳ではないが、社長が顔を付き合わせた距離に居ると居ないとでは、緊張感は全然違う。

これが沙織の低迷状態の始まりだったのかも知れない。

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