陽のあたる場所へ


「でね、今回、プチ同窓会的な飲み会で会ったんですよ。彼女の友達と私の友達が面識あって持ち上がった話らしいけど、私のことを呼んだら?って言ったのも彼女らしくて。きっと社長のこと喋りたかったんじゃないですか?」

「なるほど。で、社長とその娘は、どういう経緯で?」

「それそれ!彼女の親、どっかの社長さんなんですよね。何か大きな書店です。何書店だったっけ?忘れちゃったけど。
で、うちの専務と仕事がらみの知り合いで、勧められて付き合うようになったとか。
家柄では私に勝ってるし、そこへ持って来て、私の上司と来たから、特に食いついたんじゃないんですか?その友達からも、私が社長に気があるって話、聞いてたんですよ」

「ますます怖ぇ。そんなのに、あの社長が巻き込まれてるとか。
しっかし、出版社に勤めてる分際で、書店の名前、聞いたのに忘れるって、それ、どうなんだ」

「このまま、政略結婚とか、嫌だからー!」

「政略って…。でも、その娘、いくら何でもいずみちゃんへの当て付けだけじゃないんだよね?社長のこと、好きなんだよね?」

相槌だけで黙って聞いていた沙織は、初めて口を開く。

「そりゃ、容姿も肩書きも申し分ないし、好きは好きなんだと思うけど、邪念もいっぱい入ってるのは確かだと思う」

「そうなんだ…。ま、社長も性格は難有りだしね」

「そうですかぁ?社長、確かに厳しいし、口も悪いけど、優しいとこもありますよ。
普段、見せないだけに、たまに笑顔で〝ありがとう〟とか〝ご苦労様〟とか、言われると、キュンと来ちゃいます」


…一緒だ!私もそう思う!…
沙織はつい口に出しそうになったが、言葉を飲み込んだ。
まぁ、私の場合は、そんな場面を第三者的に見るだけで、直接言われた覚えは一度もないので…と思い直す。
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