陽のあたる場所へ
「さ、帰りましょうか。明日も仕事だし。俺、こいつ送って行きます。先輩は大丈夫ですか?」
「あ、うん、私は大丈夫よ。いずみちゃん、送って行ってあげて。これじゃ一人で帰すの危ないわ」
「…ですよね」
「さ、いずみちゃん、立って。帰るわよ」
「だ~か~ら~!私は、沙織先輩なら許すって言ってんですよ~」
いずみは、顔を上げたものの、うつろな目をして、呂律の回らない口ぶりで、沙織にしなだれかかる。
「何、訳の分かんないこと言ってんの?ほら、ちゃんと立って」
沙織は苦笑しながら、いずみの背中をそっと叩く。
「おい、これ以上、海野先輩に迷惑かけんじゃない」
吉沢が沙織の肩に掛けられたいずみの腕をほどき、自分の肩にかけさせた。
「迷惑ですか~?ごめんなさい」
また眉毛を下げて、泣きそうな顔をするもんだから、ついほだされてしまう。
「全然全然。またいつでも付き合うから。だから、今日はもう帰ろうね」
「は~い…」
ふざけるようにして、片手を上げて笑ういずみの目尻が涙に濡れていた。
ルックスや肩書きがいいとか、ダメなら潔く諦めるとか、口ではクールなことを言っていたが、結構、本気だったんだな…
きっと、自分と同じだ。
無理だと思いながらも、どうにも諦め切れないほど、心の中でもう龍司の存在が大きくなり過ぎている。