陽のあたる場所へ
⑨ 掻き乱されて
事務所の中で、どこからか携帯のバイブの音が響く。
そのうち誰かが出るのだろうと聞き流していた沙織だったが、なかなか音が鳴り止まないので、パソコンのキーボードを叩く手を止め、顔を上げて辺りを見回す。
丁度コピーを取り席の方に戻って来た光里が、音のする方を確かめながら歩いて行った。
「社長のだ…。あれ?今、どこだっけ?」
龍司の机の前で立ち止まった光里は、沙織に問い掛ける。
「さっき出掛けたよね?えっと…河西書店と打ち合わせの後、直帰って書いてある。珍しいね、こんな時間に出掛けて直帰なんて」
沙織がホワイトボードの社員のスケジュールを見ながら、光里に伝える。
「ま、気付いたら戻って来るか…。こっちから連絡できないしね」
「そうだね」
いつの間にか途切れた着信音は、少し時間を置いてまた鳴り始めては切れ、それを何度か繰り返す。
そして、事務所の電話も、殆んど同じだけ鳴り響く。
「申し訳ありません。只今、出掛けておりまして…。
はい、生憎、携帯電話をこちらに忘れて出てしまったようで、そちらも繋がらないかと…。連絡つき次第、こちらの方からご連絡致しますので…」
鬼の居ぬ間にと、早めに仕事を切り上げて帰ろうと考えていた沙織と光里は、立て続けに掛かる電話の応対に追われる。