陽のあたる場所へ
指定されたホテルの最上階のラウンジに着き、沙織は店内を見渡す。
大きな窓ガラスの向こうには、夜の闇の中に街の灯りが広がり、煌めいている。
その窓際の席に、龍司の姿を見付けた。
その向かいに、こちらに背を向けた状態で、一人の女性が座り、その相手と談笑している。
社内ではあまり見ない表情だった。
沙織は、そこへ近付いて行く。
「海野…さん?…え?どうして」
驚いた表情で沙織を見る龍司に気付き、その女性が振り返る。
長い髪を上品にカールさせた華やかな表情が、沙織を見て、微笑んだ。
思わず沙織も笑顔を作り、頭を下げる。
「龍司さんがスマホがないって困ってらしたから、さっき化粧室に行ったついでに、会社に電話してみたんです。そうしたら、この方が出られて届けて下さると…。
ごめんなさい、龍司さんにお伝えしてなかったわ」
…龍司…さん?…
そう彼の名前を呼ぶこの女性は?…
その女性は、沙織に向かってもう一度微笑みを向ける。
「貴女が海野さんね?私、河西書店の河西舞子と申します。
わざわざごめんなさい」
「いえ…。ご連絡頂き、こちらも助かりました。ありがとうございました」