陽のあたる場所へ


エレベーターを降りて、ホテルのロビーを歩く。
旅行中の宿泊客、食事に来た客の満足気な顔、
行き交う人々の幸せそうな表情が、全て色褪せて見える。


外に出ようとした時、沙織のバッグの中でスマホの着信音がした。
ディスプレイを見ると、いずみの名前が表示されていた。

出たくない…きっとこの一件に絡む話に他ならない…
でも、今、放置しても、また何度も掛かって来るたろう。
覚悟を決めて、通話キーを押す。

「はい」

「あの…さっき、沙織先輩がまだ居るかと編集部に行ったら、大村さんから聞いて…。先輩、河西舞子と会ったんですか?」

「あぁ、今、社長にスマホ届けて来たとこよ」

「舞子に何か言われました?」

「うん。何か私と社長のこと、誤解してたみたいで。いずみちゃん、ダメじゃん、テキトーなこと言っちゃ」

沙織は、わざと、ふふっと笑って、たいしたことじゃないから気にしてないというアピールをした。
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