陽のあたる場所へ
「じゃあさ、もう当たって砕けて来いよ。沙織のことだから、ハッキリ気持ち伝えてないんだろ?」
「伝えてないけど、もう砕けたよ。彼は結婚するんだから」
沙織は、相手が会社の社長であることと、その婚約者のことだけを簡単に話した。
「出版社の社長と、大手書店の娘か。そんな結婚、陰謀が働いてるかも知れないじゃん 」
「ヒーローとか、陰謀とか…。亮はアメリカ映画の観過ぎなんじゃないの?」
「何でもいいよ。だけど結婚ったって、まだ正式に決まったのかどうかだってわかんないんだろ?
なら、ちゃんと伝えたら、事態が変わるかも知れないじゃん。
それで、もし本当に玉砕したなら、また俺が慰めてやるよ」
「…うん、…ありがとう」
やり場のない想いを解放するように空を仰いで大きく息をした亮が、沙織に視線を戻し、まじまじと見て笑った。
「沙織…まるで雪だるま」
笑いながら、大きな手で髪の上に積もった雪を払ってくれた。
「亮だって…。雪祭りの雪像みたいになってる」
沙織も両手で、亮の髪をメチャクチャに掻き回すようにして雪を払った。
「バカ、そんなクシャクシャにすんなって。俺、まだ電車に乗って家まで帰らなきゃならないんだぞ」
亮は、自分で髪型を整え直し、コートの雪も払いながら言った。