陽のあたる場所へ
その日は、一日中、雨が降り続いていた。
真冬の寒さは幾分緩んで、この雨の後、だんだん春に向かって行くのだと、テレビの天気予報で言っていたような気がする。
今朝は、地下鉄から会社に着くまでに、靴の中まで濡れてしまうくらいの激しい雨だった。
何気なく観ていたテレビにも興味がなくなり、消してみると、まだ外から雨音が聞こえた。
沙織は自分の部屋の窓から外を覗いてみる。
朝の激しい雨に比べたら、随分落ち着いた降り方になっていた。
窓ガラスの向こう側を滑っては落ちる雨粒を、何となく目で追いながら、明日の朝には上がるといいけど、出勤時間にまた酷い雨だと嫌だな…などと考えていた時、テーブルの上でスマホの着信音が響いた。
思わず時計に目をやる。
そろそろ日付が変わる頃…こんな時間に誰?
ディスプレイに表示された名前を見て、沙織は手に取ったスマホを落としそうになった。
「社長?…」
勿論、上司なのだから、部下の携帯番号を把握しているのは当然で、実際に電話がかかって来たこともあった。
でもそれは、外回りをしている時の用事だったり、帰宅後に何か問題があって事情を聞かれたり、そんな用件でしかない。
従って、こんな夜中にかかって来るなんてことは一度もなかったのだ。