陽のあたる場所へ
「あの…もし何かに感情をぶつけたいなら、え‥と、例の契約…。
私にはそれしかできないし…。
だから、これから行きましょうか?私じゃ役に立てませんか?」
龍司が電話の向こうでハッと息を飲むのがわかった。
「いや…ごめん…。いいんだ」
「でも…」
「いや…悪い。そんなこと言わせるつもりで電話したんじゃないんだ。自分でも…よくわからない」
「社長…?」
「…一昨日、‥‥‥‥‥…」
口ごもりながらも、意を決したように何かを話そうとしたその時、外を走る救急車のサイレンの音が近づいて来て、龍司の声を掻き消した。
「え?…すみません、今、救急車が通って、声がよく聞こえな…」
沙織が龍司の声を聞き取ろうと、息を凝らして集中した時、受話器の向こうから、サイレンを鳴らしながら、道路の雨をバシャバシャと跳ね上げて走り去る、救急車の音が聞こえた。
…えっ?今、会社じゃ…
沙織は慌ててカーテンを開け、窓の下を見ると、傘を掴んでドアを飛び出した。
エレベーターを待つ時間ももどかしく、階段を息を切らして駆け下りる。
マンションのエントランスを出ると、植え込みのレンガの上に、傘もささずに、うずくまるように座っている龍司がいた。