陽のあたる場所へ
「着替えた方がいいですね。でも、男物の着替えとかなくて…」
「タクシー降りて、電話してる間だけだから、そんなに濡れてない」
俯いたまま、ボソボソとくぐもるような声でそう言い、立ちつくしている龍司の上着を脱がせて預かり、代わりに大きめのカーディガンを肩にかけ、ソファーに座らせた。
そしてバスタオルを渡したが、膝の上に置いたままうなだれている。
沙織はそのバスタオルを手に取り、龍司の頭に被せるようにして、黙って髪を拭き始めた。
驚いたように沙織を見る龍司。
「あ、ごめんなさい。勝手なことを…。
今、何か温かい飲み物でも入れますね」
キッチンに行き、紅茶を入れながら龍司の様子を見るが、バスタオルを頭にかけたまま、視線を落としている。
「この紅茶、ストレス溜まってる時や、リラックスしたい時にいいんですよ。
私、社長に怒られた日は、必ずこれ飲むんです。
あ、本人、目の前にして言う事じゃないですよね」
沙織が紅茶を差し出しながらわざとふざけて言うと、龍司は不自然な苦笑いを浮かべた。
「あの‥‥どうしたいか言って下さいね。
これ飲んだら帰りたいなら、送って行きます。
動く気力がないなら、ベッドを使って下さい。
私は、ソファーで寝ますから。
あと…もし、私の身体が必要なら…、その…思うようにして下さい。
余計な事は何も聞いたりしませんから…」
龍司は一瞬顔を上げて沙織の顔を見たが、何か思いを巡らすように視線を動かした。
「‥‥‥」
「どうします?」
「……話を…聞いて貰えるかな…」
与えた選択肢のどれにも龍司の答えがあてはまらなかったので、沙織は慌てたが、言葉が出ないまま、彼の斜め横のソファーに座った。