陽のあたる場所へ
兄は、父の会社の後継者として、父と変わらないくらい忙しい日々を送っていた。
まぁ俺も、もうキャッチボールやゲームをせがむ年頃でもなくなっていたので、兄との距離感も、特に違和感を感じることなく毎日を過ごしていた。
兄には大学の後輩の恋人がいた。
とても素敵な女性で、俺はその兄の恋人、森島絢音(モリシマ アヤネ)さんに憧れていた。
いや…実は密かに淡い恋心を抱いていた。
けれど、大好きな兄の恋人だ。
決して、彼女とどうにかなりたいとか、どうにかしようとかいう気持ちは全くなかった。
前言撤回…
好きだったんだから、気持ちがない筈はない。
しかし、大好きな兄の恋人に、例え玉砕したとしても想いを打ち明けることなど、決してしてはいけないと固く心に決めていた。
彼女に想いを寄せるようになってから三年くらいの間、俺にも人並みに恋人と呼べるような女性がいたりもした。
勿論、彼女達には、真剣に向き合ってるつもりだったし、ちゃんと好きだとも感じていた。
けど、その間もずっと、絢音さんのことが心の中から完全に消えてはくれず、
「龍司はいつもどこか冷めてて、本気で愛されてる気がしない」
と去って行った。
返す言葉もなかった。
再婚するまでずっとキャリアウーマンだった母は、家にずっと居る事に飽き、俺の大学入学を機に、もうずっと家に居る必要もないし…と働きに出始めた。
その代わりに家政婦さんが一人、家に来るようになった。