陽のあたる場所へ


「絢音さん…駄目だよ。何して…」

「龍司くん、お願い。私を…抱いてくれないかな…」

「え…?からかわないで下さいよ」

「からかってなんかない。本気なの」

「やめて下さい。こんなこと、兄貴に知れたら…」

尚も身を捩り、両手で絢音さんの肩を掴んで引き剥がそうとする俺に、彼女は思いもよらないことを言った。

「卓也さんとは、もう終わってるの」

「えっ?…」

俺の抵抗が止むのと同時に、絢音さんは俺から離れた。その目には涙が浮かんでいた。



「彼、きっと他に好きな人が居るわ。
偶然見掛けたことがあるの。接し方を見て、ただの友達とか、仕事関係じゃない女性だと、すぐにわかった。
それに、その日遅くなったことを、仕事だったと嘘をついたもの。
他にもいろいろあるのよ。
今日だって、仕事じゃなくて、私に会いたくないだけかも知れない。

私に、他に好きな人ができたんじゃないかってことにも彼は気付いてると思う。
なのに〝別れよう〟と言わない彼の心がわからなくて…。
私からも言えないまま、ズルズルと続いてるだけなの」

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