陽のあたる場所へ
「ただいま、龍司。開けるぞー。絢音、もう帰っ…」
どうにも取り繕いようのない俺達の姿を目の当たりにして、兄の表情もまた凍りついた。
「お前ら…何…して…」
「卓也さん、私は…」
「どういうことだよ!絢音。俺を騙して、龍司ともこういう関係だったのか!」
彼女は、首元までブランケットで隠すようにして、睨むように見据える兄に向かって言った。
「貴方だって…貴方だって、私に隠れてそういう人がいるじゃない。私達の仲なんて、もう冷え切っていたじゃない」
「は?!何だよ、それ。
何を勘違いしてるのか知らないが、俺に他の女などいない。
お前の心が、どこかに向いていたのは気付いてたけど、相手が龍司だったとは…。
俺もとんだ笑い者だな」
「違うんだ、兄さん。俺の方が絢音さんを…」
「お前も、こうやって俺の彼女を奪ったりして、陰で笑ってたのか!」
「違うよ…俺はそんな…」
兄は大きく溜息をついて言った。
「とにかく二人共、服を着てくれ。俺の前にそんな姿、晒さないでくれ」
兄は思いの外、仕事が早く片付き、すぐに新幹線に飛び乗ったらしい。
絢音さんに帰れないと連絡をしていたので、撤回しようと電話をしたが出なかったので、取り敢えずメールを入れ、戻って来たということだ。
その電話は、きっとマナーモードのまま、絢音さんのバッグの中で鳴っていたのだろう。
そんなことにも気付かずに、その間、俺達は情事に耽っていたのだ。