陽のあたる場所へ
⑫ 長く暗い夜
初夏の嵐は、夜どおし窓ガラスを叩きつけ、泣き喚くように空気を震わせた。
多分 その夜はずっと、膝を抱えて床に座り込んでいた。
一睡もできず、酷い頭痛になるほどいろいろなことを考えていたが、それは何の解決にもならないことばかりで、ただ頭の中を堂々巡りしているだけだった。
いつの間にか風と雨の音が止んで、朝の光が窓から差し込んで来たのに気づき、俺は顔を上げる。
ゆっくり部屋の中を見回すと、途端に息苦しくなって、むせかえるように咳き込んだ。
絢音さんと二人で、好きな音楽を聞いたミニコンポ。
彼女が抱きついて来た時に落としたCD は、床に散乱したまま…
キスをして抱き合ったベッドのシーツの皺…
彼女のヒールの音が、冷たく遠ざかって行った窓。
兄が座っていた椅子。
全部、昨日のままだ。
まだ半日ほど前の出来事でしかない。
それなのに、俺の何もかもが全て一変してしまった。