陽のあたる場所へ
第三章
⑬ 暗闇の果て
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これが…俺が社長として本社に赴任するまでの全てなんだ…」
龍司は、目の前の冷めた紅茶に手を伸ばし、一気に飲みほした。
静かな部屋の中に、カップとソーサーの触れ合う乾いた音が、やけに響いて聞こえた。
龍司の衝撃的な半生の告白に、沙織は言葉を見つけられないでいた。
「父は当然のことながら酷くダメージを受け、倒れてしまった。
社員のみんなは心筋梗塞で倒れたと聞いてるよね。
俺がしたことにショックを受けたからなんだ。
父が倒れたから、俺が後を継いだ訳じゃない。
暫く入院した後、自宅で療養をしてたけど、精神を病んでしまってね…
今は施設に入ってる。
施設に入所する時に立ち会ったけど、アルツハイマーになっていて、もう俺の顔もわからない。
そして母は 自分の病気も、余命も、明かすことなく、俺に許されないまま、家族の誰にも看取られずに死んで行った」
噂は本当だったんだ…。けれど、その陰に、こんな悲しい経緯があったなんて…。
沙織には、ただ龍司の顔を見つめ、その悲しみを受け止め理解しようと努めることしかできない。