陽のあたる場所へ
⑭ 夜明け
「ごめん…でも違う。そうじゃないんだ。
こんなこと言える立場じゃないのは、重々承知の上で言わせて欲しい。
辞めないでくれ。俺の側に居て欲しいんだ」
龍司は まだ悲しげな色を瞳に纏わせたまま、哀願するように沙織を見つめた。
思いがけない言葉に、沙織の頭の中は混乱してしまう。
「えっ、…でも、私を見ると彼女を思い出して辛いんですよね…」
「最初は似てると思った。
それに玉の輿願望とやらで近づいて来る女は、うんざりするほど居たから…。
海野さんも同じだと思ったんだよ。
俺に視線を向けられる度、彼女と同じだと思って、苛ついた。
でも、当然だけど、違うってことにだんだん気付いて行った。
海野さんは、仕事で俺がどんなにきつく当たっても、事務所の中ではいつも明るく振る舞っていたよね?
反省しない奴なのかと最初は苛ついたけど、他の社員がミスしたり、作家との間でトラブルがあった時も、同じなんだよね。
吉沢が言ってたな…海野マジックだって。
ここの部署がいつも活気に溢れているのは、海野沙織という太陽のような存在が居てくれるお陰なんだと理解した。
そして、あんな関係になっていても、
恋人気取りをするとか媚びるとか、逆に怒りをぶつけるとか、そんなことは一切して来なかった。
それが不思議だったけど…。
それでも、屈折した俺は、自分の中での気持ちの変化を認めたくなかった。
だって、俺の中のくすぶった思いをぶつけられなくなるから…。
俺以外の誰かと接している時の笑顔が眩しくて、いつの間にか癒されている自分が居たのに、認めたくなかった。
だから余計にムキになって、自分の想いも、貴女のことも、壊そうとした。
そんなどうしようもない奴なんだ…俺は。
でも…もう自分の気持ちを抑え込むのは疲れた…
素直になりたい。
いつの間にか愛してたんだよ…海野さんのことを…。
だから…側に居て欲しいんだ」