陽のあたる場所へ
「え…どうして…」
「この前、海野さんが俺のスマホを届けてくれた時、あの後、彼女は電話を掛けに行くと言って、廊下に出て行った。俺は席に残ったものの、自分もあちこちに電話をしなけりゃならないと思い、精算を済ませて、店を出たんだ。
でも、廊下で電話をしている筈だと思った彼女が居ない。
もう少し先を探しに行くと、エレベーターホールに、海野さんと彼女の姿を見つけた。
そして、話を聞いてしまったんだ。
彼女は俺を本気で愛してなどいない。誰かと張り合う為とか、将来が安泰だとか、そんな事しか考えてないのがわかった。
海野さんのことを疑い、わざわざ嫌味を言う為に追い掛けて…そんな彼女を好きにはなれないと思った。
それと同時に、自分も同じようなもの、いや、もっとタチの悪いことをして来たんだと思い知らされた。
これまで女性のことを邪険に扱って、相手の気持ちを考えることさえしなかったんだから。
海野さんにも本当に申し訳ないことをしたと思ってる。
そんな俺と彼女が一緒になっても、どちらも救われない。
それに、会社の為の縁談とか、父の二の舞になるようなことも避けたかった。
…そう思ったから、後日、彼女に詫びて破談にして貰った」