陽のあたる場所へ


もう雨の音は聞こえない。


静かな部屋の中に、沙織の吐息が宙を舞っては降りて行く音だけが響く。

沙織の身体を、龍司の手が、大切なものを慈しむようにゆっくりと撫でて行く。


「どうして今日は、こんなに優しいんですか?」

初めての優し過ぎる感触に、沙織は龍司の耳に顔を寄せて問い掛けてみる。

「今までの俺を忘れて欲しいから…。
俺がして来たことは決して許されることじゃないけど…
それでもできることなら払拭したい。だから、優しく抱きたいんだ…」

「忘れないですよ。そんな簡単に忘れられる訳ないじゃないですか」

「そうだよね…ごめん。でもこれからの俺を見てて欲しい。何年かかっても、必ず塗り替えて行くつもりだから…」

「そういう意味じゃないですってば…。
今までの貴方も全部ひっくるめて、受け止める覚悟したんですから…。
だから、そんなに優しく扱ってくれなくてもいいんです」



龍司が、一瞬だけ泣きそうな顔をして、すぐに笑う。


「もしかしてドMなの?」

「あ、ドSの血が騒ぎました?」


顔を見合わせて笑う。
こんな軽口を叩いて笑い合うことは初めてで、胸の奥に一筋の風が抜けたような気がした。
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